パズル制作の裏側 第45話

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文字、書くという行為について

 編集さんからアンケート葉書を見せていただきました。応募葉書に付属しているアンケートです。ありがとうございます。読者のナマの声は、いや、ナマの文字はとても励みになります。字って深いですよね、パソコンやスマホ、新聞や雑誌・テレビの文字は活字。読みやすいことに間違いはないのですが、ナマの手書きの文字は最近あまり見る機会もなく。私自身、最後に字を書いたのはいつだったか、と考えると、役所での申請やファミレスの入口かなにかかなあ、あ、法事のときには筆ペンで書いたっけ、みたいな体たらく。


読者の皆さんの文字は「正解であれ!」という希望に満ち溢れていて、とても元気づけられました。20年くらい前に、ナンクロを含むパズルをパソコンやスマホで扱おうみたいな流れがいくつもあって、実際私もそれに関わったりしました。紙よりもコストが低く済むし、これからは電子だ、みたいな雰囲気でいっぱいだったと記憶しています。しかし実際は、紙の雑誌はなくならない。他の雑誌は電子に移行しても、パズル雑誌は紆余曲折ありながらも、なんとか生き延びている。


その原因には「実際に字をマス目に書き込む」という行為・動作の問題が深く強く関与しているように思います。字を読めても書けない、そんな風潮が深まるこの御時世に、実際に文字を書く、この行為はとても有用というか有意義なことなのではないかと。脳・頭にとっても、手・身体にとっても。字には人が出ると言いますもんね、私自身は恥ずかしくなる字しか書けないのですが。と、ここまで書いてきて、あ、失念していました、私こそ毎日のように字を書いているではないですか。


人様に見せるものではないのですが、私はほぼ毎日、なにも書いていないマス目に文字を書き込んでいたのでした。以前、他の作家さんの手書きの入稿原稿を見たことがあるのですが、とても美しい文字で丁寧に書かれていました。もちろんファックスで送られていたものですから(けっこう前の話であることがここからわかりますね、笑)コピーのようなものなのですが、それはそれは美しく、これは垂涎もの!と感動しました。おそらく作成過程からのものではなく、原稿として清書したものだったと思います。この清書だけでもどれだけの手間と苦労だったろうと感激でした。翻れば、私自身は作成過程ではひたすら紙に、そして清書としてはパソコンに打ち込んで、というスタイルです。いまはほとんどの方がこのスタイルじゃないかなあ、作家のみなさんにアンケートをとったわけではないですから、パソコンですべてやってる方や、手書きのみで今もやってる方もいるのかもしれませんけど。


とにかく私に関していえば、空白のマス目をひたすらペンで埋めていく。もちろん、これではうまくいかない!と消す場合も多々あります。以前は鉛筆と消しゴムだったので大幅にやり直すときには、消しゴムのカスが机の下に大量に積み重なり、書く手も鉛筆で真っ黒という塩梅でした。10年くらい前に、擦ると消えるボールペンというのが生まれて、一気にバラ色の世界に。ありがとう、技術革新!


ただアレは熱に弱く、珈琲カップなんかをうっかりその上に置くと、あらあら魔法のように消えてしまう。何度か、痛い目にあっています。あと、何も書かれていない空白のマス目を、数カ月に一度、コンビニにコピーしにいくのですが、何十枚と出てくる空白のマス目は他の人が見たらギョっとするのではないかと、いつもコソコソしています。つまり我が家では、昔はシャーペンと芯と消しゴム、いまは消えるボールペンの芯が、おそらく尋常でないくらい消費されています。そう、私は実に日常的に字を書いている人だったのでした。


でも、やはり、人に見せる字とそうでない字はまったく性格が違う気がします。読めればよい、という前提で書いているのですが、あまりに乱雑だと自分でも判読不明な場合も。ただ丁寧に書くということをしている時間はないので(思い付いたこと・頭の回転スピードを落したくないので)いまは軽い筆圧でそこそこ読みやすい字を書くように心掛けています。なので書き順なんかは滅茶苦茶、例をあげると「口」なんかは1画、ほとんど「○」を書いています。(もちろんコレを推奨してませんよ、笑。)


その他、作成過程のマス目には、欄外に「こちらの可能性もあり」みたいな落書きのようなもの(実際にはとても役立つものなんですけれどね)も書き込まれていますし、色つきペンや蛍光ペンなんかでガイドを入れたりもしています。作成ではなくて解く場合でも、読者の方によって、マス目への書き込み方ってずいぶん違うんじゃないかと思います。そう、ノートやメモの取り方と似ているかもしれません。きれいな字で整然と書かれているノート、乱雑で雑然として一見なんだかわからないノート。それではまた次号で

●このコラムは、難問漢字館Vol.47に掲載されたものです。

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