パズル制作の裏側 第3話

【前回】パズル制作の裏側 第2話

 前回に続き、別冊漢字館Vol.51の表紙問題を検討していきます。



 漢字ナンクロではなるべく表出し文字(ヒント文字)を続けさせない、というのが暗黙のルールになっています。
ただ、このパズルのように小さいサイズなどでは、少なければOKというのが実情です。よくわからない言葉でマス目が満たされるよりは、馴染み深い言葉が並んでいるほうがよい、というわけです。特に、初級パズルならば。これが上級向けになると、また話が違ってくるのですが。

 さて、この初級パズルでは「報告」「自活」の部分で表出し文字が続いています。
漢字には文字としての特異性があります。辞書にもよりますが、「報」が頭にある2文字の熟語は30個もありません。「活」が後ろにつく2文字の熟語は10数個。そのなかでも馴染みがあるものはそれほど多くありません。
「報」を例にします。馴染みのある言葉は「報告、報国、報酬、報賞、報知、報道、報復」くらいでしょうか。ほかにも20個ほどあるのですが、知っている人は知っている、というような熟語ばかりです(個々人の知識量というテーマについては、これはこれでおもしろい問題なのでまた今度扱います)。

 また「報復」のように、突然言われる=目にすると驚いてしまうような言葉は、脈絡を持たないパズルでは使用しにくい熟語なのです。なによりパズルは快適さを求めるツールですから(人によって感じ方が違うという部分も、文脈のないパズルではおもしろいテーマです。これもまた後日、扱いたいと思います)。
ならば、そういう他の文字とくっつきにくい文字は使わなければよいではないかと考えられますね。

 そうなのです。
例えば「人」「地」「水」「天」「物」「学」「生」「大」「中」「日」などなど、他の文字とくっつきやすい文字はたくさんあるのです。このパズルでもベースにはそういう文字たちが使用されています。
ただ、そういう文字だけではマンネリになってしまう。でも、よくわからない言葉のオンパレードや表出し文字の連続多発は避けたい。まあ、その辺りの案配がパズル作家の力量というわけです。

 さらに、文字の特性についてもう少し説明していきます。
このパズルには「報告」や「自活」のほかにもさまざまな表出し文字が使用されています。ここでは「誕」「涯」「哲」を取り上げます。
「誕」が後ろにつく2文字の熟語は数個ありますが、一般的なものは「生誕」だけです(降誕、再誕、聖誕などもありますが、これはキリスト教に身近な方以外にはあまり一般的でないかもしれません)。

 そして、「誕」が頭にある2文字の熟語で一般的なものは「誕生」しかありません。どれだけ「誕」が展開力(=他の文字とくっつきやすい力)がないかわかると思います。
そして逆に、それだけガチガチな文字であるのが「誕」です。つまり、作家としては大きなヒントとして「誕」を使用しているわけです。

 「涯」「哲」についても同様です。「涯」が後ろにつく2文字の熟語で一般的と思えるのは「境涯、生涯、天涯」くらい。「涯」が頭にある2文字の熟語で一般的なものは、ほぼありません。
「哲」が頭にある2文字の熟語で一般的と思えるのは「哲学、哲人、哲理」くらい。「哲」が後ろにつく2文字の熟語は、10数個あるのですが、馴染みのあるものはあまりありません(英哲、賢哲、聖哲、先哲などがありますが、日常的にはあまり使いませんよね)。

 前回予告した「後・4・3・事」「年・13・14・事」「旅・14・6・内」「報・11・機・7」「2・校・9・聞」「一・5・旅」「2・4・4・活」などへの分析は、また次回に。

 最後に、例題の解答です。



●このコラムは、難問漢字館Vol.5に掲載されたものです。

【次回】パズル制作の裏側 第4話

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