パズル制作の裏側 第2話

【前回】パズル制作の裏側 第1話

 今回は「表出し文字」(ヒント文字)について解説していきます。

 漢字ナンクロからパズルを始めた方にとっては「表出し文字」の存在は当たり前だと思います。ですが、カナナンクロや英語のクロスワードから始めた方は「なぜ、マス目に最初から文字が出ているの?」と不思議な気持ちになるかもしれません。
表出し文字とは以下のようなものです。別冊漢字館Vol.51の表紙の問題がこちらです。



 マス目にすでに出ている「物」「黒」「報」「告」のような文字のことを「表出し文字」(ヒント文字)と呼んでいます。カタカナやアルファベットのように文字数が制限されているならば、すべてのマスを隠しておくように問題を構成することが可能であり、パズルとしてはそれが正統だといえます。
なぜなら、パズルとは(完結した)「世界」であり「謎」だからです。カタカナのナンクロでいえば、すべてが数字のみで覆われているマス目を前提として”あえてこの問題では”という例外的ヒントとして、ヒントワードが与えられている、というわけです。
ですが、漢字ナンクロではそういうわけにはいきません。そしてパズルは、多様なあり方を設定できることこそが、その強みであり面白みなのです。

 そこで大切になってくるのがルールです。多くの人にとって妥当性が感じられ、さまざまな状況下において(読者の方々が納得できる)可変性が持てるルールです。漢字ナンクロが登場し始めた頃のパズル作成者たちにとって「パズルにおいて表出し文字があってもOK」とするのは、大きな決断でした。
現実的に、漢字ナンクロでは表出し文字がないと解くのが難しすぎますし、それは作成する側にとっても同じことなのです。難問漢字館では、ずいぶん表出し文字の少ないパズルを掲載しておりますけれど。

 表出し文字をどこまで許容するべきかなのかが、当初のルールを設定する側の大きな問題となりました。たまに、表出し文字が延々と続いているパズルを見かけることがありますが、それはあまりよろしくないだろう、と創成期の作家たちは考えた。
今回、例にあげたパズルでいえば、マス目の左上隅が「8」ではなく「実」と最初から出ていて「実物」「実用」と繋がっている、みたいなパターンです。これはよそう、と。



 あくまでこれは個別のルールです。もともと表出し文字がないものとして存在するクロスワードに表出し文字を導入したわけですから。
ですが、とりあえずの努力目標として表出し文字の連続は避けよう、と。見た目のイメージとして、そして、文字の並びの意外性の発見、という要素の担保のためです。
ただ、小さいサイズのパズルではそれがなかなか難しいのも事実です。マス目に入れ込める情報量が少ないですし、漢字という文字の特性のためでもあります。このパズルでも「報告」「自活」の部分は表出し文字が連続しています。

 次回は「報告」「自活」の話をもう少し深く、扱います。努力目標と汎用性、そして、妥当なルール設定という視点から掘り下げていきます。
さらに、「後・4・3・事」「旅・14・6・内」「2・4・4・活」などの言葉も含めて、もう少しこのパズルを分析していこうと思います。

 最後に、例題の解答です。


●このコラムは、難問漢字館Vol.4に掲載されたものです。

【次回】パズル制作の裏側 第3話

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