パズル制作の裏側 第4話

【前回】パズル制作の裏側 第3話

 前回に続き、別冊漢字館51号の表紙問題を検討していきます。



 難問漢字館を購入されている方々は、おそらく上級者、それもかなりの猛者と推察します。
ただ、昔を思い出してみてください。漢字ナンクロというものに初めて接した頃は「なに、これ?」という感じでいっぱいだったんじゃないでしょうか。おそらく取っ掛かりさえうまくつかめないくらいに(私自身は、接したのが創成期近辺だったこともあり、解答マスを見ても「なに、この言葉は!」という感じでした)。

 前回の予告に戻ります。「後・4・3・事」「年・13・14・事」「旅・14・6・内」「報・11・機・7」「2・校・9・聞」「一・5・旅」「2・4・4・活」などから、漢字ナンクロに慣れた方なら、すぐに以下のような組み合わせが推測できると思います。

 「4=生」「3=大」「13=中」「14=行」「6=案」
「11=道」「7=関」「2=学」「9=新」「5=人」

 このパズルは初心者の方向けに作成されていますから、できるだけバレバレのものを、ヒント文字を連続させないかたちでたくさん導入することが意図されているのです。ただ、これでも初心者の方ならすぐにはわからないかもしれません。

 また、ここでは日常的に親しみのある言葉が選択されていますが、何より重要なことはここでは「合成語」が多用されているということ。すなわち「年中行事」「旅行案内」「報道機関」「学校新聞」「学生生活」など。
「年中行事」とは「年中+行事」です。これらは前後のどちらかを挿げ替えても熟語として成立します。たとえば「学校行事」のように。
つまり「年○○事」なら「年中行事」と想像できても、「○○行事」では○○部分はほぼ未確定。「○○機関」「○○新聞」も同様です。前号でガチガチな文字(「誕」など)について書きましたが、合成語はガチガチではないのです。

 このなかにガチガチな熟語が1つあります。
それは「後生大事」、みなさんご存じ四字熟語です。もとは仏教の語で、4文字そろって意味を持つ語なのです。
「後生大事」は「後生一生」という言葉もあるので、ガチガチ度がそれほど高いものではないのですが、「四面楚歌」「五里霧中」などを例にあげれば、四字熟語というもののガチガチさは理解しやすいかもしれません。

 4文字そろって初めて意味を成し、その語の成立には故事がある。そういった熟語は分割できませんし、ナンクロにおける文字の決定権において強く作用するのです。
ただ、そういう熟語には汎用性のある文字(前号で示した「人」「地」「水」「大」など)でない文字が使用されていることが多い。例えば「楚」「里」「霧」など。「楚」などは、手許の辞書ではこの文字を含む熟語で馴染みがあるのは「清楚」くらいです。
「里」「霧」などは「楚」に比べれば、それを含む熟語は多岐に渡りますが、「人」「地」「水」「大」などとは比較になりません。初心者の方向けのちいさいサイズのパズルでは、なかなか使用しにくい要素がそこにはあります。

 「楚」と同様の文字をあげてみると「欒」や「睛」などがあります。「一家団欒」「画竜点睛」の「欒」と「睛」です。これらはほとんど他の文字とくっついて熟語を構成できません。
つまり、単体でガチガチな文字であり、「欒」「睛」が出てくれば「一家団欒」「画竜点睛」だと推量できるという意味で、ガチガチな熟語なのです。

 この問題では使用していませんが漢字ナンクロに「水中花」「地下水」や「花天月地」が使われることが多いことは御承知だろうと思います。つまり、これの文字は汎用性があり、使いやすいのです。
個人的なことを恥ずかしながら書きますと、漢字ナンクロに接するまで「花天月地」という言葉を知りませんでした。もちろん「花鳥風月」は知っていました。ですが、パズルを作成するようになり、「花天月地」のありがたさが身にしみました。つまり、使い勝手がとてもよい文字で構成されている熟語というわけです。
「水中花」も同様。それほど日常的に目にはしない水中花ですが(「愛の水中花」で知っていると言うと年代がバレますね)、パズルを構成するにはとても便利な言葉なのです。

 次回は「学生生活」を取り上げます。
つまり「学AA活」、同じ文字が1つの熟語内で使用されているパターンです。「民主主義」「一世一代」「一挙手一投足」「御御御付」なども同じパターンです。

 最後に、例題の解答です。



●このコラムは、難問漢字館Vol.6に掲載されたものです。

【次回】パズル制作の裏側 第5話

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