パズル制作の裏側 第38話

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パズル作家をしている私ですが、作成するだけではなく、パズルのチェックもすることがあります。自身でパズルを解いてチェックする場合もあれば、他の方に解いてもらって、その解いたペーパーを見ながらチェックする場合もあります。最近は後者が多いかな。
チェックとはなにか。基本は、マス目に同じ熟語が二度出ていないか、ヒントとなるあらかじめマス目に出ている文字(これのことを作家・編集者の間では「表出し文字・ヒント文字」と呼んでいます)が複数ないか、数字と文字の対応に齟齬はないか、間違った(言葉として成立していない)熟語はないか、などです。「大言壮語」のつもりが「大言創語」になってしまっているとか、ですね。
この連載の最初のほうで触れた「島」もチェック項目のひとつです。島についておさらいしておきましょうか。パズルのマス目は分割されてはならない、これが島が駄目である基本認識です。これは「パズルは形式的にその内部で完璧に完結していなければならない」という認識に基づいています。現実とは別の世界だからこそ、ルールの厳密性が求められているということかしら(島についてはマス目にして説明をと思ったんですが、今回はスペースが足りず。また次回に)。
その他にも、二重マス・色マス・大マスや、リストタイプのものなど、個別に存在するチェック項目があるのですが、煩雑になるのでここでは割愛させていただきます。
チェックする際には(自分で実際に解く場合、特に)そのパズルの面白みというのにも注目しています。言うまでもなく、人には好み、好き嫌いがあるわけですが、実際に解いていると「これはよくできている!」と感激・感嘆することもあり、逆に「これは欲張りすぎて、無理がかかっちゃって、イマイチになってるかも」と同じ作家として戒めとさせていただくこともあるのです。そうなんです、パズルは人工的で限定的な小さな世界であるために、全体が綺麗にまとまっていることがもっとも重要なのです。もちろん、そこに新鮮・新奇で、ある意味で乱暴な部分が、けれど綺麗に織り込まれていることが理想なのですが。
正直なところ、自分が使ったことがない熟語を見ると大感激します。「ありがとうございます」と小さく呟きつつ、今度この熟語を使わせてもらおうワクワクと、どこに住むのか知らぬその作家さんに向けて手を合わせるのです。
自分で解かない場合も、解いていただく方に「どんな感想でもよいから、ペーパーの片隅にいろいろメモしておいてくださいね」とお願いしています。で、そのペーパーを見ながらチェックしたあとで、解いた方に「このメモの意味はなにかしら」と聞く、そういう流れ。個人的な評価でよいので「点数をつけてくださいね」みたいなことも伝えてあります。もちろん、好みの個人差は大きく、また経験値豊富な方と初心者では感想はまったく別物、その方のパズルを解くタイミング(疲れている、寝不足、その他諸々)も影響すると思います。
その方には仕事としてお願いしているので、そこそこのチェック項目に関心を払ってもらっているのですが、まず第一は解き心地について。読者の方からのコメントを編集さんに見せてもらうことがあるのですが、やはりみなさんそれぞれに「私のお気に入り作家」っているみたいですもんね。
とはいえ(作家・編集者が、全力かつ総力をあげて)チェックに取り組んでいるのですが、人は間違いを犯すもの、少々の間違いはご容赦くださいませ。特にケアレスミスみたいなものは。編集さんもいろいろ多忙であることは横から見ている私たち作家も垣間見れるんです。編集さんがナーバスになると、我々作家側にも影響が及ぶ。「より無難でリスクの少ない言葉・スタイルを選択してください」みたいなかたちで。実際そこまであからさまに言われることは少ないのですが、そういう空気というか。
厳密に、厳格な、きちんとしたパズルを作成して、誌面にして、読者の皆様に届ける、これが第一なのは無論言うまでもないこと。作家の私はそれでご飯を食べているわけですから、それを第一に考えています。
ただ、伸び伸びとした、より面白みのあるパズルを、というのもこちらの役目。その、行ったり来たりのハザマで(間違っていないかとか、独りよがりになりすぎてないかとか)我々作家も悪戦苦闘しているところです。
ともあれ、読者の方からのハガキにあるコメントはとてもうれしい、そして役に立つものです。ありがとうございます。
そして、年・時代とともにいろいろ変化していきますよね、言葉の使い方そのものも、パズル誌自体も。新しい言葉もどんどん生まれていますし、死語というか消えてしまった言葉もたくさんあります。でもそれは大歓迎。社会も言葉も日々動いていくもの、その流動性・多様性を楽しんでいくのが言語パズルですから(あ、そういえば「消えてしまった言葉」について今回は書こうとしていたんでした、いま思い出しました。ごめんなさい、これはまた次号以降に)。
パズルを実際に解いてもらっている方の話を聞き、その書き込まれたペーパーを見ながら、やはりマス目やチェック表に「いままで出てこなかった熟語や文字」が登場すると嬉しいものなんだなあ、私も精進しなくてはフムフム、などと改めて感じいっている日々です。
今後も末長く(お互いに優しく・厳しく)よろしくお願いいたします。あ、これ、私自身への戒め以外のなにものでもないですね、笑。精進します!

●このコラムは、難問漢字館Vol.40に掲載されたものです。

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