パズル制作の裏側 第36話

【前回】パズル制作の裏側 第35話

マス目の話の前に、熟語の話を少ししておきましょう。前回、宿題にしておりました法律経済政治用語的な堅めの熟語の例を出します。「主要先進国首脳会議」などが典型でしょうか。一般的には「サミット」と呼ばれてます。他にも「小選挙区比例代表並立制」や、やや古くなりますが(そして最近改めて注目されているようですが)「一国二制度」、さらにイニシエをたどると「経世済民」などがあります(「経世済民」になると、立派な四字熟語ですね。中国の古典が原典で、世をおさめ民をすくう、という意味。この言葉からエコノミーの訳語として「経済」が生まれたということです)。
「三権分立」「国民主権」など教科書で多くの世代が学んでいるものを別にすると、やはり好き嫌いが分かれそうですね。さらにかなり強烈なものをあげると「朝鮮民主主義人民共和国」などがあります。ただ、この熟語、内容が強烈なのではなく、文字の並びが強烈なのです。11字という文字数の多さとともに「民」「主」が複数回使用されているため。意味内容を別にすれば「御御御付」や「日日是好日」「出来不出来」も文字複数使用パターン例として似ているところがあります。パズルとして面白みのある熟語ですよね。
最近は特にカタカナ表記をする場合も多いため、ある意味で漢字パズルには受難の時代かもしれません。ただ、難読語みたいなものはクイズ番組のおかげもあり、以前よりも知識豊富な方が増えている気もします。辞典的なものも以前よりも増えているのではないでしょうか、ウェブ的な媒体を含めると特にそう感じます。ただ日常的な普段の生活で使っている優し気な言葉というのは漢字の分野では減っている気がします。というより、もともと優しい言葉は「漢字かな混じり」であることが多いというべきか。
マス目に入れるために言葉をセレクト・選択しているとき、カタカナのクロスワードパズルやかなナンクロと、全漢字ナンクロではやはりかなりノリが違ってきます。それはそうですよね、漢文と和文(あるいはカタカナも使用した文)くらい違うというべきかも。全漢字ナンクロに歴史用語を入れるのはそこそこできたとしても、手芸や園芸、料理の言葉を中心にしようとするのは塩梅がかなり難しいというか。無理のかからない、違和感のないマス目とするのには、特に(しかし「塩梅」という言葉も素敵、「塩塩梅」などは痺れちゃいます)。
私はテーマがあるパズルを作成するのが嫌いではありません。というよりなぜか私はナンクロ漢字館でも別冊漢字館でもテーマがある特集を担当することが多いのです(これがなぜなのか、実は私もわかりません)。こういうときにはまずは調べることから始めます。最終的にマス目に使用するかしないか(使用できるかできないか)は置いといて、とにかく調べて、羅列する。そして、なかなかマス目に結実することは少ないんですけれど、そのテーマについて(けっこう、可成り)詰め込み学習をする(先日「料理」をテーマに4問ほど漢字ナンクロを作成してくださいという依頼があり、言葉を羅列するなかで、「あ、サシスセソで作成しよう」などと思い付き、それはそれは嬉しい瞬間でした)。詰め込み学習はある意味で苦痛で徒労的な作業なんですが、自分の知識がいかに片寄っているかを発見(再発見)することもできて、有益・有意義なことも多いのです。あるいは、そこそこ知っていたと自分では思い込んでいたものもソウデハナイことを実感できる貴重な場、みたいな。
この感覚、ある映画やドラマを偶然見ることによる驚きと喜び、に近いかもしれません。そういう意味では朝ドラや大河ドラマはやはり奥深いところがあるんですね、などと改めて。ナンクロ漢字館では「都道府県」も担当していて、こちらも毎回付け焼き刃的に詰め込み学習をしています。こちらもすでに何回か特集している都道府県でも常に発見と喜びがあるというか(あ、こちらもテレビ番組でありましたね)。脱線につぐ脱線になりますが「付け焼き刃」も「付焼刃」という表記もあって、言葉の持つ意味の自虐的おかしみも含め、嫌いでない言葉です。そういえば「漢字・ひらがな、混じっているナンクロ」を最近作成していない気がします。あのタイプ・スタイルも嫌いではないんだけど、難問漢字館ではあまり見かけないですね、などと、読者の反応をチラりと伺ってみたり。
マス目の話をしようと思っていたのですが、それを始めると膨大になることもあり、今回はつらつら・ダラダラと書いてみました。ツラツラ・だらだらを含めて、日本語はひらがな・カタカナ・漢字(最近はアルファベットも?)を組み合わせたかたちでとても不可思議に、魅力的に展開していますよね。女忍者を意味する「くノ一」など、お見事としか。これ、「くノ一」と実際に書くと「女」と書けるからだそう。言葉ができた時代は思ったよりも最近で60年代とか。もう、このセンスのよさには脱帽しかありません。

●このコラムは、難問漢字館Vol.38に掲載されたものです。

【次回】パズル制作の裏側 第37話

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