パズル制作の裏側 第33話

【前回】パズル制作の裏側 第32話

「カギ付きクロスワードパズル」(続き)
カギ付きのクロスワードパズルのカギについて続けましょう。前号にも書きましたが、最初にもう一度。実はカギには正解というものがありません。ナンバークロスならば「同じ番号には同じ文字」という絶対性があり、そこが好かれている要素だと思います。しかし、カギ付きクロスは別もの。パズルが成立しないようなアバウトさは厳禁ですが、それさえ維持されていれば、アバウトさが楽しみの深さを出すのです。まず、問題マス目と解答マス目をまとめてどうぞ。


これを分解すると次のようになります。
(ヨコ1)竜頭蛇尾
(ヨコ4)十字路
(ヨコ6)傍聴

(タテ2)頭文字
(タテ3)尾張
(タテ4)十手
(タテ5)路傍

例えば、前号では以下のようなカギを提案してみました。

(ヨコ1)初めヨシヨシでも終わりは
(ヨコ4)別名、四つ辻
(ヨコ6)裁判を見学しよう

(タテ2)英語だとイニシャル
(タテ3)伊勢は津で持つ津は伊勢で持つ、○○○名古屋は城で持つ
(タテ4)銭形平次が銭とともに持つ
(タテ5)「○○○の石」は山本有三の小説

また、別のカギ(マス目)も考えてみました。

(タテ3)尾張を「尾崎」と変更し、カギを「早世のカリスマ、アイラブユー○○豊」
(タテ4)十手を「十両」と変更し、カギを「幕内と幕下のあいだ」
(タテ5)路傍を「路線」と変更し、カギを「駅にある、時刻表と○○図」
(ヨコ6)傍聴を「線香」と変更し、カギを「毎朝(仏壇に)あげます」

このように「いかようにも」なるのがカギ付きクロスです。変わったカギのパターンとして「漢字のみのカギ」というのもあるので、今回はそれを紹介していきます。

(ヨコ1)四字熟語含動物名
(ヨコ4)道路上一形態四辻
(ヨコ6)見学見聞於裁判所

(タテ2)姓名略字於英語等
(タテ3)名古屋古昔国名前
(タテ4)銭形平次等所持品
(タテ5)山本有三小説題含石

うーん、タテ5はうまくいきませんね。このような場合はマス目を変えるのがカギ付きクロスの常道です。その路線で考えると「路傍」「傍聴」を変えないといけませんね。考えてみましょう。

(ヨコ6)道路於両側端部分
(タテ5)人乗行為首胸付近

いかがでしょう。わかりますか。ヨコ6が「路肩」、タテ5が「肩車」です。マス目に入る文字は基本的に使わない、というのがカギの前提。この場合で言うと「肩車」では「肩」を使いたいところですが、我慢して首胸付近とするわけです。わかりにくくなりますが、そこはなんとか工夫しよう、と。ヨコ1も「竜・蛇」を使いたいところですが、少なくともどちらかにするとか、その辺りを作家は悩み、模索するわけです。

話が前後しますが、それにしても漢字のみのカギというのを考えた方には感服します。これ、正しさではなく(はっきり言って「いい加減」です)遊び心から始まったとしか思えません。残念ながら、発明した方を存じ上げないのですけれど、パズル作家として素晴らしい発想だと思います。

またテーマありのものが面白みと深さを出せるのがカギ付きクロスの醍醐味、まあ、カタカナの場合なんですが。ナンクロでは(というより漢字だと)テーマ的なものであってもすべてを関連する熟語にすると逆に無理がかかり面白さが減じてしまう場合が多い。カギ付きクロスのテーマの例を出すならば「文学」「歴史」「科学」などはもちろん「趣味」「芸能」「オシャレ」みたいなものでも、とにかくナンデモござれ。ニッチな個別趣味的な深い領域にも入っていける。ただ興味ない人にはとっつきにくい、という逆の事態も出てくるわけですが。

パズルの世界にも実は流行り廃りがありまして、漢字ものが生まれてしばらくは漢字ものの進撃は凄まじく、現在ではその勢いはなくなりつつも定番化しています。ナンバープレイス・数読などとよばれるものも相変わらずコンスタントに人気を得ているよう。イラストロジックなどと呼ばれる、ある種の絵をドット化して解析し、それを推測させる(塗り絵させる)タイプも活躍しているようです。実は私はあまり見ていなかったのですが(それを反省している昨今なんですが)テレビ番組でもパズル要素のあるものは今世紀に入る前後からかなり流行っていて、そのパターンもバラエティに富んでいたと聞いています。最近はクイズ的なタイプが全盛のようで、ただその手の番組が増え過ぎると、クイズ的・知識的な構成の中にもひらめき的・パズル的な要素が入れ込まれているようです。(「よう」ばかりですみません。)

カギ付きクロスは一時期の隆盛は収まったようで、かつ、シンプルなものが好まれている気がします。その傾向はナンクロもそうかもしれません。込み入ったものよりシンプル。でもまた流行は変転する気がします。(マス目の大きさにも流行の変化がある気がしますね。)

 カギ付きクロスに戻れば、カギに○を使うのを避ける作家もいます。妙にこだわるなあ、と思いつつも、パズル作家みたいな人はコダワッテなんぼですよね、と尊敬した覚えがあります。

●このコラムは、難問漢字館Vol.35に掲載されたものです。

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