パズル制作の裏側 第29話

【前回】パズル制作の裏側 第28話

続・詰めクロス

「詰めクロス」についてさらに考察を進めてみましょう。今回は解答マス目からスタートしてみます。

考え方でいうと「ここから文字をいかように抜いていくか」が詰めクロスなのです。ちなみにナンクロ(ナンバー・クロスワード)では「複数回使われる文字は隠される=数字に変換される」というルールが取り入れられています。詰めクロスの場合、ただ抜いただけ(白マスにしただけ)、それだけでは茫洋としているので「白マスに入る文字をリストにする」という手法が取られています。
ナンクロの場合も別解はありえます。たとえば「口下手」と「下水道」でしか「下」という文字が使用されていなければ、この場合「上」でも成り立ってしまう。歴史ある四字熟語のようなものであれば、たとえば「●面楚歌」なら、●=四であり●=三、ということはないといえます。ですが「●六時中」という場合、●=四も●=二、もありうるのです。(一般的には「四六時中」ですが、辞書的には「二六時中」も存在します。)特に「口下手」や「下水道」のような合成語の場合、ある意味ではいかような言葉も成り立ってしまうところがあるのです。たとえば四文字になりますが「一流大学」という言葉があります。辞書的には存在しないタイプの熟語ですが、一般的にというか日常生活的に使用されています。でもパズルに使用するさい「二流大学」「三流大学」(さらに四・五・六・・)というのは許されるかといえば、許されないとは言えなくともどこか腑に落ちない感じになってしまいます。(実際「一流」以外はほぼマス目に登場することはないと思います。)「口下手」に戻りますと、「空下手」「赤下手」「話下手」という熟語は辞書にもあるようですし、「●下手」「●●下手」という言葉なら、●にどんな文字を入れてもなんとかなるという気さえしてきます。
説明が長くなりました。別解答については後回しにさせてもらい、詰めクロスの難易度について。まず前回の問題マスとリストをご覧ください。

リスト)栄・影・応・間・休・健・剤・子・食・素・着・特・白・姫・保・夢・養・蘭・連

 リストの文字をマス目にあてはめてください、というルールです。解答は「使われずに残る3文字で言葉を作成してください」というもの。リストに残る文字は「栄・素・養」、つまり解答は「栄養素」です。前回はこれを難しくする方向に、つまりマス目にあらかじめ出ているヒント文字を減らしてリストの文字を増やす、というパターンを紹介しました。今回は逆方向、カンタンにしてみましょう。

(リスト)栄・影・間・健・剤・子・食・素・着・定・白・夢・養・蘭・連

 かなり簡単になったのではないでしょうか。このように更にマス目にヒント文字を加えていけば(リストの文字を減らしていけば)詰めクロスはいくらでも平易になるのです。またこの問題では「注連縄」(しめなわ)という熟語を使用していますが、これを「外連味」「愚連隊」「不連続」「英連邦」などにすると難易度もまた変わってくると思います。(「しめなわ」や「けれんみ」のような難読には人により得意不得意がありますし、「愚連隊」は若い方には馴染みが薄いでしょうし。)「接着剤」「薬剤師」の部分も「接客業」と「開業医」「従業員」だとずいぶんイメージが違うと思います。

 最後に別解答について少し。「夢幻」「幻影」「影響」「饗応」の部分は2文字つながりになっています。こういう部分は要注意。ここを「夢中」「中人」「人相」「相応」などにした場合、解答を「現代文」などにしていたら「中文」「文相」もありえますから、解答を「現代人」とする人が出てくる可能性があります。つまり、ある種の周到さが詰めクロスには必要ということですね。これ、「はみだしナンクロ」などでもありうる事態です。それではまた再来月。

●このコラムは、難問漢字館Vol.31に掲載されたものです。

【次回】パズル制作の裏側 第30話

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