パズル制作の裏側 第24話

【前回】パズル制作の裏側 第23話

さて「骨皮筋右衛門」とはどんな人物でしょう?
たいていの方には想像つきそう。そう、すごく痩せてる人。骨と皮と筋しかないという意味。辞書にはないようですが、最近は「骨皮筋子」という言い方も出回っているみたい。ま、かなりベタな(想像しやすい)洒落めいた言葉です。
同じようなパターンに「飲兵衛」「小言幸兵衛」「忠兵衛」など。「飲兵衛」は文字通り、酒を飲むのが好きな人。(私ですね。)「小言幸兵衛」は出典は落語。幸兵衛という長屋の家主が口喧しい小言ばかり言ってることから転じて、一般的に口喧しい人の呼称として定着しました。「忠兵衛」は、これはもう人ではなくて、主に関西で使われたようですが「鼠」のこと。チューと鳴くからですね、たぶん。この線でいくと「ニャン太郎」とか「ワン助」とか、もうなんでもありみたいですが、「忠兵衛」が定着したのは鼠がおめでたいものの象徴だったことと関係がありそう。子孫繁栄とか吉兆とか、そんな風な。いまは猫のほうが受けてるみたいですけれど。

 「吝太郎」は「りんたろう」ではなく「しわたろう」と読みます。読んで字の通り「けち」のこと。辞書でみると「ののしっていう言葉」という表記なんですが、これらにはどこかユーモラスというか愛情が感じられませんか。ダイバーシティとか文化的多様性とか言葉は勇ましいけれど、どこか寛容に欠けているように感じられる昨今と比べると。まあ、言葉は言い方・使われ方なんですけどね、結局。
 文脈と関係なく抽出されたりすると、まるで違く(下手すると真逆の意味に)なってしまう場合も多々。漢字パズルは文脈がなく突然言葉が出てくるものですから、この辺りは作成する際には気をつけています。例えば「行方不明」という言葉、東日本大震災の前はパズルでもそれほど意識せずに使われてきたように思います。(私も使ってました。)けれど、あの天災・人災の後では「マス目の中で使うのはよそう」と考えたパズル作家は少なくないはず。「原子力発電」なんかは、いまも悩むところです。「土石流」みたいなのも昨今の異常気象での災害なんかを考えると、、、こうなるとドツボにはまってしまうので、使ってはいけない言葉を増やせばよい(無難に走る)という方向ではなく、パズルを楽しむ読者が嫌な気持ちにならないような(そして、それでいて斬新でオモシロイ)ものを、、、と、こんな感じでやってます。「死」という文字なんかも「起死回生」「酔生夢死」「不死鳥」みたいな言葉だと悪くないのですが、マス目にあらかじめ出てるヒント文字としてドンと「死」があると、やっぱりムムムですし。

 閑話休題。
「合点承知之助」は「忠兵衛」の類似語でしょうか。つまり「合点した」「承知した」(心得た、任せておけ)を人名っぽくしてる。ベタですね。江戸らしいというか、ちょっと斜めに構えないと、粋じゃない・恥ずかしい、というか。いまでは少なくなった気もしますけど、いますよね、こういうイチイチ悪振らないと照れちゃう江戸っ子気質の方。「その手は桑名の焼き蛤」みたいな言葉もそうなんですが、江戸風は、洒落を入れないと(正直では)格好悪い・恥ずかしい、みたいな。
 「石部金吉」は、融通の効かない人のこと。特に、色恋がらみで。石とか金のように道徳的に固く、誘惑に惑わされない。でもさらに言えば、そういう機微がわからない人。「金兜」はさらにその人物がカブトをかぶっているという強調です。これも「しっかり者」と「空気を読めぬ人」という両方の意味を持っていて、揶揄としてからかっている部分もありますが、それでも残る愛情を感じる言葉です。
 「飯田左内」は意味ではなく「音」、まさに駄洒落。言い出さない。つまり「なかなか発言しない」人だそう。ちなみにこの言葉、手元の辞書にはありません。なので、パズルのマス目に使用したこと、実はありません。これ、使ってよいかしら。アンケートとりたいくらいです。このレベルまでくると、私みたいなタイプは(駄洒落好き?)感銘を受けてしまいます。

 「平気の平左」は意味からですね。いつでも動じずも平気な顔をしてる人。「平気の平左衛門」の略だそう。このように日本の戯作・小説では一時期、登場人物の性格が名前に反映していたはず。つまり、主人公には主人公らしき名前、悪い奴には悪い奴らしい名前、みたいに。
 言文一致辺りから変化してきて、戦後にイニシャル使用の流行があって、さらに人名(固有名)をほとんど明らかにしないパターンに展開したような。あまりちゃんと読んでないんですけれど、ラノベとかは実は江戸風に回帰してるんじゃないかしら。。
 さて、さきほどのアンケートもそうなんですが、質問・要望、受け付けております。ではまた再来月。

●このコラムは、難問漢字館Vol.26に掲載されたものです。

【次回】パズル制作の裏側 第25話

ページトップへ戻る