パズル制作の裏側 第22話

【前回】パズル制作の裏側 第21話

 編集さんと相談したら「読者さんたちは漢字がやはり大好きだから」と。そこで今回は熟語について。これまでパズルの形式について多く書いてきたこともあるので、それも良きかなと思います。

 パズル、特に漢字パズルを解く楽しさのひとつに、熟語の発見があります。解けたときの達成感とともに、知らなかった熟語が出てきて、それを調べてみたときの新鮮な驚きといったら。もちろん、調べてもあまり腑に落ちない場合もあります。ですが「こんな言葉があったのか」という、なにかちょっと得した気がする場合も少なくないと思います。

 作家がパズルを作成する際「辞書にある言葉・日常的観点から見て納得できる言葉」を選択し使用することのは大前提。ですが「○○学」「○○人」「○○家」的なものばかりでは興醒めというか、それでは特定できないというか、極論を言えば1文字無駄にしているというか、ま、それは言い過ぎになりますが。(「繋ぎ」として無理ないマス目を構成する場合に「学」「人」「家」的な文字はそこそこ必要になってくるんです。その塩梅というのが腕の見せ所なんですけど。)

 そこで私自身が漢字パズルの世界に入って「こんな言葉があったのか、知ってよかった!」的な熟語をいくつか並べてみます。あ、でもその前に、難問館の読者の方が(おそらく)忘れてしまったであろう事実をひとつ。
「花鳥風月」を知らない人はそういないと思います。小学生でも知ってるでしょう。ただ「花天月地」を知っている人はそう多くないのではないでしょうか。もちろん「知ってたよ」という方も少なくないと思いますが。ちなみに私は知りませんでした。
「花・天・月・地」は自然を表す身近な文字です。美しい字ですし、なにより(特にパズルにおいては)汎用性=使える度合が高い。「天」はやや違いますが、どの文字も熟語の頭にも尻にも使うことができる。「水」なども同じです。なので作家は(私は、かもしれませんが)ついつい「花天月地」を使ってしまいます。ですが、漢字パズル初心者にとって「花天月地」はパッと出てくる熟語ではないと思います。それが、半年くらい漢字パズルに親しんでいると、いつの間にか、もうすっかりお馴染みの言葉に。それどころか「また花天月地?」くらいに感じると思います。これはどの分野でもそうなのですが「知らないものに慣れるのはけっこう早い」のです。
私自身がそうだったのですが、漢字パズル作家になる前は、ひたすら漢字パズルを解きました。パズル誌のためのチェックの仕事としてそれをしていたのです。先人に教わったのは「知らない言葉が出てきたら、とにかく辞書で引きなさい」、教わったというより仕事=ビジネスの指令です。そこにあったのは楽しみというより地獄の時間でした。(当時は電子辞書はありませんでしたし、もちろんいまでも紙の辞書を使用されている方も少なくないと思いますが。)勉強にはなりました。なにしろパズルを解いているというより、辞書をひたすら引き続けていたのですから。あ、ここでまた思い出しました。「水中花」も最初は辞書で引いたように記憶しています。もちろん(松坂慶子の「愛の水中花」もありましたし)言葉として知ってはいました。ですが厳密に「水中花ってなに?」ということになると、辞書を引かないと言明できませんでした。(「愛の・・」で年代がバレてしまいそうですね、笑。)
とにかく(難問館の読者であるみなさんは)既に漢字パズルにかなり親しんでおられるので、一般的な漢字熟語感覚とは(こちらも既に、かなり)違っている=半端なく熟語知識レベルが高い、はずなのです。ここに、漢字パズルのハードルの高さと、慣れるとハマってしまう要素が混在していると思います。そして「花天月地」的な言葉は漢字パズルには蔓延しているのです。
そしてまた、現在日常的に使用される言葉は本当にカタカナ混じりが多くなっています。ITやビジネスの世界ではもちろん、メディアや行政レベルでもそうです。ここまでやらなくともよいのでは、と思うくらい。(意味がすぐにわからない場合も多いですし、カタカナにする意味があるのかしらと感じるくらい。)そんな昨今ですから、日本語=漢字の熟語がむしろ新鮮で素敵に見えることも少なくありません。そしてそれは漢字パズルにとってポイントでもあるのです。例をあげてみましょう。

ATM・・・・・現金自動支払機
IT・・・・・・情報技術
LCC・・・・・格安航空券(を発券している航空会社)
アクセサリー・・服飾小物

 それでは「アリバイ」を漢字表記すると、なんでしょう?
答えは次回ということにして、「原動機付自転車」も「原付」とか「原チャリ」とか略されますよね。そういう略語もいろいろ奥が深いです。
知ってよかったと感じられる深みのある四字熟語の紹介をしよう、と思っていたのですが、またもや脱線してしまいました。「一押二金三男」的な言葉もなかなか趣きがありますよね。言葉・熟語の世界は本当に奥が深く、幅も広いです。それではまた次号で。 

●このコラムは、難問漢字館Vol.24に掲載されたものです。

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