パズル制作の裏側 第19話

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  今回は「スケルトン風」漢字ナンクロについて。これまで、しりとりナンクロから始めて、いろいろなスタイルのナンクロを概括してきましたが、これが最後。なぜ最後にしたのか。それは、スケルトン風漢字ナンクロが例外というか異端というか、ともあれ、ある種「ルール破り」の要素を持つためです。どんなルールか。端的にいえば「黒マスは連続してはならない」というルールです。英語のクロスワードパズルには「黒マスは連続してはならない」というルールは存在しません。それは(以前にも書きましたが)アルファベットが26字とかなり制限された文字数であるため。日本語(厳密にはカタカナですが)に輸入されたとき、カタカナの数の多さに鑑み、このルールが導入されたのだと推察します。英語ほど黒マスを少なくすることはできない、それに英語のものは黒マスがある種デザイン化されているのが普通なのです。要は「絵になっている」とでも言うのか。それはカタカナではできない、というか、そこまで枷をはめてしまうと、パズルとして・言葉としての自由度・展開力が減じてしまう。でもある種の制限・デザイン性・美しさは必要だ…ということで、市松模様を想起したのかどうかは知りませんが、黒マスを連続させないというスタイルが導入されたのです。のちに生まれた漢字ナンクロも同様のルールを受け継ぎました。
それでは、いつ「ルール破り」が行われたのか。

私の記憶ではスケルトンスタイルのパズルはかなり前から存在していました。ただそれは「スケルトン風」漢字ナンクロではなく、リストがあるスケルトンデザインの(「骨格」を模した)パズルとして。その例がこれ。

途中まで作成してみたもの、というところはご勘弁を。これにリストがついていて、リストの言葉をうまくあてはめてください、という体裁です。作成途中のものでありますが、このパズルのリストは次のようなものになります。

リスト
(3文字)感嘆文・気圧計・検査役・小役人・下検分・入木道・一口大
(4文字)感情移入・義理人情・小生意気・人口統計・大義名分・一人天下・文武両道

(ここでは途中までしか作成していないので、あまり表面化していませんが、実は、こんな言葉あるの?的な熟語が登場しがちなのも、スケルトンのある意味での特徴。ここで言えば「入木道」がそれにあたります。実際、私も先ほどまで知りませんでした。これは「じゅぼくどう」と読み「書道」のこと。あてはまる言葉を探していて、あまり日常的な言葉はみつからなく、ふと見ると、あった「入木道」。意味を調べてみて、ああこれなら知ってよかった!タイプの言葉だな、と選択しました。このように、ナンクロならば文字を確定するための熟語としてはみなされにくい「入木道」のような言葉を使用できるのは、リストに掲示するというタイプのパズルならでは。いろいろと奥が深いですね、本当に。)

(また、このように完璧なかたちを維持してマス目を構成しようとすると、無理がかかる場合があります。そんな場合は、スケルトンのどこかをつぶしてしまうというのが定石。このパズルで例をいえば「口」から始まる4文字をなくしてしまう、という風に。つまり、口の右に続く2つのマス目を黒マスにしてしまうということです。)

解答としては、最終的にマス目には入らない(最後まで残りそうな、ひっかけ要素のある)言葉をリストにまぜておき、それを答えてもらうというのが一般的です。
それが、いつどのような経緯で「スケルトン風」の漢字ナンクロとして変化を遂げたのか。…実は、これへの答えを残念ながら私は持っていないのです。私が漢字パズルに関わった当初にはまだ存在していなかったと思うのですが。おそらく、どこかのパズル作家とパズル編集者が「やってみよう」と気軽な(ある意味で安易な)ノリで始めたのではないかと。そのためかどうか、スケルトン風は(正式な)ナンクロじゃない、スケルトン風は嫌い、という方も少なくないという話もチラホラ聞きます。

でもスケルトン風にしかできないこともあるんです。それは展開力が極めて低い文字の使用が可能になるということ。そして「人名」などでは使用されていても一般的な言葉では決して使われないタイプの文字の使用も。例としてあげれば「宇宙」の「宙」という文字など。この続きは、また次号で。

●このコラムは、難問漢字館Vol.21に掲載されたものです。

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