パズル制作の裏側 第18話

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 「展開力が小さい文字」について。

まずは、漢数字は熟語の1文字めと3文字めに入りやすい、ということについてから。例をあげてみましょう。
「一期一会」「一喜一憂」「一字一句」「一国一城」「一宿一飯」「一進一退」「一世一代」、まだまだあります。手元の辞書によると、馴染みあるもの・ないものを含め、この「一●一●」パターンは50以上あるようです。同様に「一●二●」「一●三●」「一●四●」「一●五●」のパターンもあります。ただ「一●六●」「一●九●」のパターンは存在しない。3文字めが「十・百・千・万」の熟語がそこそこ存在することを考えると、なかなか興味深い話でもあります。
1文字めが「二・三・四・五・・・」の熟語もたくさんあります。「二束三文」「二人三脚」「三寒四温」「四捨五入」「四分五裂」「四苦八苦」「四通八達」「五臓六腑」「七転八起」「七難八苦」「七難九厄」「八面六臂」「九死一生」「十年一日」「千載一遇」「千客万来」「千軍万馬」「千変万化」などなど。3文字めの(後ろに来る)漢数字のほうが数が大きい傾向があるようです。
他にも比喩的な使われ方のものとして「千五百秋」(限りなく長い年月)「十千万両」(非常に多い金額)「九分十分」(だいたい同じ)「八百八町」(江戸の町々)「十中八九」(ほとんど)「三十六計」(「逃げるに如かず」と続けて、争わないのが第一)「七十五日」(噂が絶えぬ日数)、などがあります。
ベタな数字から生まれた熟語も多数。「一汁三菜」「二十四金」「四書五経」「四公六民」「四十七士」「五十三次」「百人一首」などなど。「三三九度」は作法の回数が固有名詞化したおもしろい例です。「二尺八寸」は刀の長さ(約85センチ)を表したものですが「刀」そのものを指す言葉として定着しました。いわゆる隠語でしょうか。「二百十日」は立春から210日めの日のこと(節)ですが、9月頭のこの頃は台風が多いので、それを暗示しています。「三三五五」は、あちこちから・てんでバラバラに、の意味。「七五三縄」は「しめなわ」と読み、そう、神社にあるアレです。「注連縄」とも書きます。
「八紘一宇」は全世界をひとつの家にすること。日本書紀に由来します。ですが、第二次世界大戦での日本の侵略を正当化する言葉として使用されたため、流通する意味が違ってしまったというか、少なくとも戦争を生きた人からすれば気持ちよい言葉ではなくなってしまいました。文脈なしに言葉が乱立するパズルという場所では、私も避けたい(使いたくない)言葉です。文脈があり、流れがあれば言葉はその文脈のなかで機能します。ですが、パズルのような場面では突然(脈絡なく)登場する。楽しむためにパズルをしているのに、頭をガツンとやられるような、嫌な気持ちにさせる言葉は避けたいところです。

「展開力が小さい文字」とか言っておいて、漢数字の広がりは大きいですね。すみません。ただ、最後が漢数字で終わる熟語はそれほど多くはありません。「二者択一」「天人合一」「天下統一」「遮二無二」「唯一無二」「無二無三」「再三再四」「朝三暮四」「三三五五」「道中双六」「人三化七」(人間が3、化け物が7で、つまり醜い人、の意。これもパズルでは使わないほうがよいかもしれませんね)「十中八九」「一騎当千」「海千山千」「笑止千万」などなど。とりあえず4文字の熟語で(そこそこ有名なものを)あげてみました。
3文字でしたら「七五三」「南無三」「三四五」(定規の一種)「四分六」「二四八」(ホトトギスの鳴き声を初めて聞くこと)「九十九」「手六十」「嘘八百」「八百万」などがあります。

漢数字が展開力が小さいというなら「しりとりナンクロのような場合では」と限るのがよいのかもしれません。ただ、2文字で後ろの文字が漢数字というのはやはり稀、つまり注意すべき対象のようです。そしてまた「繰り返しパターン」が多いことも漢数字の特徴。なので、難問で、あらかじめマス目にあるヒントとなる文字が少ない問題などで「わざとたくさん漢数字を含む熟語を入れる」ということも、よくある手法です。

「展開力が小さい文字」についてと言いながら、結局、漢数字についてだけで誌面が尽きてしまいました。マス目の展開についてはまだまだ言いたいことがたくさんあるのですが、それを始めるとまた切りがなくなってしまいそう。なので、次回からは(脱線の連続になっていますが)ナンクロの形式のもうひとつのスタイル「スケルトン風」について解説してみたいと思います。

●このコラムは、難問漢字館Vol.20に掲載されたものです。

【次回】パズル制作の裏側 第19話

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