パズル制作の裏側 第17話

【前回】パズル制作の裏側 第16話

 ホワイトナンクロの話からかなり脱線していますが、引き続き、黒マスの配置について考察します。(本当は、概括のため「スケルトン風」に進みたいところなのですが、しばしお待ちを)。さて、例題のマス目。

これがもっともベーシックともいえる「階段型」マス目です。
ヨコに4文字熟語、その3文字めに交差する形でタテに3文字熟語、そのお尻の文字が2文字めになる形でまたヨコに4文字熟語、というブロックをベースとするスタイル。このブロックを、黒マスを3つ左斜め下に続けることにより、2文字の階段で繋げていきます。これを展開してみましょう。

 アバウトに展開してみましたが、これで「天・文・三・会・人・立」が3文字以上で2度以上、使用されました。つまり、これらは文字として確定されたと考えてよく、チェック表に入れてよいでしょう。基本的には、このようなスタイルで3文字と4文字を確保して、それらを2文字で繋げれば、ナンクロは完成します(ちなみに「黒マスを3つ、左斜め下に続ける」を強調するために、色をつけておきます)。
確定について、もう少し。この例でいうと「国会議員」の「員」に繋げて「一員」と入れたとしても「一」はまだ確定できたとはいえないというのが、私の立場です。仮に「一員」「一面」「三面」と繋げたとしたら、「一」は「一人天下」「一員」「一面」で使用されたことになりますが(これで「一」は確定できると考える人もいるとは思いますが)、一応約束事として「3文字以上で2度以上、使用する」というスタイルを守るのが原則と考えているからです。

 ここでミソなのは「黒マスを3つ、左斜め下に続ける」ことです。黒マス続きが2つでももちろんよいのですが、そうすると多少、無理がかかってきます。先ほどのマス目に少し手を加えてみます。

 こうすると3文字の熟語が2つ使えるマス目になります。ただ、まず「三」から始まる2文字を考え、それがお尻にくる3文字を考えることになる。考えて、入れてみます。

 さらに進めます。

こうすると、さらに「地・下・一」が確定できたことになります。
ならよいじゃないか、黒マスを3つ左斜め下に続けなくとも2つで十分、というのは結果論。今回は「展開力が大きい」文字を使用したので、それほど苦労しないで展開できましたが、展開力のあまり大きくない文字というのも存在するのです。例えば「三権分立」のところが「羊頭狗肉」だったりしたらどうでしょう。「羊」に繋がり、それほど違和感のない熟語は「羊肉」「羊羹」くらいです。「羹」は「羊」以外馴染みのある文字とは繋がりません。ならば「肉」でと、「肉」で終わる3文字熟語を考えて、、となると、かなり使える文字に制約があることがわかります。このマス目では2文字で繋げる「フォロー部」が1マスしかありません。「黒マスを3つ、左斜め下に続ける」パターンでは以下のようにフォロー部は2マスあることになります。つまり、それだけ余裕がある。

 今回のように「一・国」という展開力が大きい文字ならば比較的容易に(例えば「一家」「国家」のように)繋げられますが、そうでない場合も多々あるのです。そして、文字のインパクトでいうと「展開力が小さい」文字のほうがよりインパクトは大きいという事実も。有り体にいえば、展開力が小さいということは意外でオモシロイということでもあるのです。
つまり、無理のない・違和感のないナンクロを構成するには、余裕のあるマス目にすることが大事。その意味で「階段型」はもっともベーシックといえるマス目なのです。

 もちろん、これは基礎の基礎。「展開力が小さいということは意外でオモシロイ」という事実があるように、アクロバティックなマス目は刺激的ですし、そういうマス目でしかできない熟語もあります。漢数字は熟語の1文字めと3文字めに入りやすいなど(もちろん楽しい例外も含めて)、次回はもう少し掘り進めてみることにします。

●このコラムは、難問漢字館Vol.19に掲載されたものです。

【次回】パズル制作の裏側 第18話

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