パズル制作の裏側 第16話

【前回】パズル制作の裏側 第15話

 ホワイトナンクロの面白さ・奥行きを語るために、前回に続き「黒マスの配置」について考察します。

他の部分から「天文学」という部分が判明したとします。(例1)その場合、「天文学」に続くマス(チェック表1)が黒マスと推測できます。そう判断して、ひたすらチェック表1を黒マスとして塗りつぶしていく、すると「あれ、黒マスが続いてるところがある」みたいなことに気付く。そう、「天文学者」「天文学的数字」という場合もあるのです。仮に「天文学者」ならチェック表2が黒マス、「天文学的数字」ならチェック表4が黒マス、ということになります。
 ホワイトナンクロの場合、黒マスの判断ミスは致命的。チェック表1を塗りつぶして、それが間違いだったと判断して、塗った部分を消して、みたいなことになると、面倒ですし、誌面は汚れますし、怒りにまかせて強くこすったりすると紙がよれてきたりして、もうホワイトナンクロなんか大嫌い! みたいな展開になるわけです。ましてや、「天文学」じゃないのか、ならば「天文学的数字」かと判断し、チェック表4を塗りつぶしたら、実はそうではなく、正解は「天文学者」で、また黒マスの連続を発見、またゴシゴシ、という展開になったりすれば、もう「いったん休憩したほうがいい」という流れになります。

 そう言えば、特に難問の場合、まったく手が出なかったとしても、時間をあけると(夜寝て、朝起きたりすると)パッと思い付くという話をよく聞きます。身に覚えのある方も多いのでは。

 閑話休題。そう言えば、知り合いのパズル作家が作成したホワイトナンクロに「1機2食3」みたいな部分があって、これは「1=黒マス・2=内・3=黒マス」だろうと判断したら、引っ掛けだったことがありました。(例2)

こういう意地悪な(いや、御茶目で、パズル精神にあふれている!)作家も少なくありません。そして、それを好む「通」な読者も多数いる、と。ただ、先述したように「ホワイトに慣れていなくてゴシゴシ」という場合もあるので、そこは作家と読者の素敵な関係を築けたらなあ、と。入口でわかりにくくて「一見さんお断り」みたいなのは、あまりよいアトラクションではありませんしね。

またしても閑話休題。つまり、ホワイトナンクロは(少なくとも、慣れてくれば)面白く、奥行きのあるものなのです、ということが言いたいわけです。そのためにも作家としていつにもまして注意しなくてはいけないことがひとつあります。すなわち「聞き慣れない熟語を避ける」ということ。言うまでもなく、これはホワイトナンクロに限らず他のパズルでも言えること。ただ、制限=壁・ピリオドをなくしたホワイトナンクロではより強くそれが求められる、と。だって、納得のいかない言葉で「壁」を突破されたら(それでゴシゴシさせられたら)読者としたらやってられませんもんね。

さらに閑話休題。アクロバティックな部分(曲芸的な奇抜さ)はホワイトナンクロの魅力。そのひとつに長い熟語があります。例をあげましょう、「原動機付自転車」(例3)。

「原1機2自3車」なら「原動機付自転車」とすぐに推測できます。ただ、「4原1機2自3車5」となっていたら(もちろん「4・5」の前後も不明なわけです)どうでしょう。もしかしたら茶目っ気がある意地悪な作家のトラップである可能性があるわけです。これはホワイトナンクロならではの事態、面白さ。(まあ、こんな極端なものはそうそうない気がしますけど)。

黒マスの配置の基本である「階段型」、それは3文字と4文字をベースにしています。それは「3文字以上の熟語で2度以上使われると、文字は確定できる」という漢字ナンクロの原則から来たもの。その意味で「階段型」は素晴らしい基本です。ただ、これから逸脱するアクロバティックさを、作家としては効果的に導入でき、読者としては新鮮な驚きを味わえる、これがホワイトナンクロの面白さ・奥行きなのです。

さて(ようやく)黒マスの配置の話をしましょうか。すでに、ここまでの話でずいぶん黒マスのの配置について言及してきたように思います。黒マスの配置の話はホワイトナンクロに限らない、漢字ナンクロに通底する話。次回はさらに、それを追求します。

●このコラムは、難問漢字館Vol.18に掲載されたものです。

【次回】パズル制作の裏側 第17話

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