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まっしろしろ!!!

第52話

今回は「まっしろしろ」ナンクロ、つまりノーヒント(表出し文字のない)ホワイトナンクロからいろいろ思いつくことを書いてみようと思います。

「まっしろしろ」と命名してくれたのは『難問漢字館』の編集さん、素敵な名前だと思います。定義としては素晴らしく簡潔な「ノーヒントホワイト」にはない可愛さ・味わいのようなものがありますもんね。
キャッチコピーというのか、名前ってけっこう重要、雑誌の表紙の雰囲気とかも同じかもしれません。

そのためか、『難問漢字館』の読者のみなさんの難問への究極的思いのためか、なかなか評判もよいようで、作家としてもありがたいことこのうえありません。
それにしても読者のみなさんはよくあんなのにチャレンジするなあ、と自らの立場をわきまえもせず感嘆する毎日です。

実は(想像できるかもしれませんが)作成する側にとっても「まっしろしろ」はけっこう大変というか面倒というか枷がかけられているというか、そういう面も大きいのです。
具体的にいいますと、普通は2文字以外のマス目を確定させて文字の頻度の確認などをして、パズルの大枠を完成させます。
ここまでも「まっしろしろ」は大変・丁寧に進めないといけないのですが、そこから先、2文字の部分を埋めていく際にたまに、どうにもこうにもチェック表に入っている文字では2文字熟語が構成できない場合があるのです。

たとえば「料」を頭とする2文字熟語はそれほど多くありません。料理・料金くらいしか日常生活語としてはなく、あとは御をつけて料地くらいでしょうか。
料飲(税)・料簡・料亭などもあるのですが、飲・簡・亭などの文字を2ページの「まっしろしろ」で扱うのはかなり困難です。
ジャンボサイズ(20×50マス)ですと、そこそこ変わった文字も扱えるんですけれど。漢数字をお尻とする2文字熟語も数はそれほど多くありません。
とにかくそーっと、壊れやすい小箱をつくるように作成するのが「まっしろしろ」なのです。

泣き言のつもりはないのですが、最後の最後で2文字を構成することができない事態に陥った場合、途方もない気持ちになるのも事実。
ワイルドに強引に、あっと驚くような、いままでチェック表では使用したことのない文字の熟語を使って、というスタイルとはまさしく真逆の世界です。

ちなみにお気付きの読者もいるかと思いますが、2ページの「まっしろしろ」のマス目サイズは20×27、リストなどがない場合を除いて、基本的に『難問漢字館』の2ページマス目サイズは20×25、編集さんにお願いして他のマス目より20マス多くしてもらっているのです。
この20の差が本当に大きい。ハガキサイズの10×10、1ページサイズの15×15、ジャンボサイズの20×50、それぞれ各々の奥行きあり、うん奥が深いです。

ずいぶん前のこのコーナーで触れた覚えがあるのですが、マス目における黒マスの比率はほぼほぼ決まっています。
そのなかで3文字以上の熟語をどれだけ多く入れられるか(言い換えれば、2字熟語をどれだけ減らせるか)が作家のセンス・仕事。
とはいえこれもほぼほぼ数値としては一定の範囲内、黒マスの階段の連続を多くしないなど(右上がりの黒マスと右下がりの黒マスの比率と配置など)基本はあるんですけれど。
同じ方向のマス目の連続は3が基本、2だと無理がかかり馴染みのない熟語が入り込む要素になる、など。
ナンクロのマス目は(これも以前に書きましたが)熟語のブロックを形成して、それをいかにスムーズに全体として構成するか、なのです
(すみません、おそらく読者の多くは言葉好き、あるいは数字嫌いの気がします。ですが、パズルには基本的に数学的要素があり、幾何学的要素、統計分析的要素がないとなかなか構成できないのです。私などはこの目眩く塩梅が好きなんですけれど)。

つまり「まっしろしろ」の場合、繊細な小箱の作成がベースですから、いつも以上に余裕・間・ゆとりを持ってそろそろと作成しないといけない。
車の運転でいえば(最近マニュアル車は少ないですが)本当に気を遣ったギアチェンジと、近くはもちろん遠くをも確認しながらスムーズに、が基本。はじめての峠道で緊張感を味わいながらドキドキ!!とは正反対の世界です。
まあ、その両方とも奥が深いし、双方にやりがい(どんなテクニックを使うか)はあるんですけれど。

また数値的なことでいえば、これも以前書いたように思いますが、チェック表の数も「まっしろしろ」の場合、ほぼ確定的に数は決まってきます。
一定数以上の文字を使うとチェック表に入れられませんし(チェック表に入れるには最低2度以上、3文字以上の熟語で使わなくてはならないので)、かつ、最初に触れたように他の文字と結びつく能力が少ない文字はあまり使えません。

マンネリと定番、刺激的な(触れたことのあまりない)熟語、その配置とバランス・塩梅。これが漢字パズルに奥行きを持たせているように思います。
作家それぞれの特徴と、同じ作家でもそれぞれのパズルに対する向き合い方の違い(編集側からの注文がもちろんありますので)、閉じられた世界であるからこそ存在しうる喜びとして、やはりパズルはあります。

泣き言ではないのですが(しつこいですね笑)「まっしろしろ」には以上のように制限というか、マンネリ・定番的にならないと存在しえない要素が高い。
あまり楽屋裏を見せるつもりもないのですが、そこそこ展開力のある定番文字をベースとして少しだけテイストを変える、これが「まっしろしろ」の基本です。
解き口のようなものも入れなくては、ということなどもあり、読者の方からマンネリ・飽きた!!と言われる恐怖と闘いながらやっています。ところがけっこう、そうは言われなくて、そこもやはり奥深いなあと。

本当のところ、どうなのかしら。これからもいろいろ感想などいただけると幸いです。

(このコラムは、難問漢字館Vol.54に掲載されたものです)

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