パズル制作の裏側 第6話

【前回】パズル制作の裏側 第5話

 ナンクロというパズルにはいろいろなバリエーションがありますが、今回はしりとりナンクロを解説していきます。



 しりとりナンクロというのは、他のナンクロと比べてとても変則的であり、その構造がまったく違っています。
何より違う点は、しりとりナンクロは「クロスしない」ことです。すなわち厳密にはクロスワードパズルではありません。グルグルを解体してみればわかりますが、しりとりナンクロとは、たくさんのマスが続く1列のマス目です。そのため、文字は左から右に、上から下に読む、という日本語のお約束も崩されています。
しかし、そこはパズルですから、説明してわかるようにしておけば問題はありません。ある意味で「うるさい」パズル愛好者(作家を含む)のなかには「しりとりはナンクロじゃないから」と言う方もいます。そして、それは正しいと思います。ただ、しりとりナンクロはナンクロのバリエーションとして(そのルール=約束事とともに)広く認知されており、もうその地位は確立されていると言ってよいと思います。

 しりとりはナンクロじゃないと言う方の理屈をもう少し展開してみると、クロスワードパズルの魅力は「マス目の配置の妙にある」ということになると思います。最初の回で書いたと思いますが、日本においてクロスワードパズルは「英語→カタカナ→漢字」と、スタイルの幅を広げてきました。
英語のクロスワードパズルには、黒マスの規定はありません。続いていてもよいし、むしろその黒マスの持つビジュアル的美しさが、クロスワードのカギのセンスの良さと一緒に評価されてきたのです。シンメトリーだとか、なにかを象っているとか、その他諸々。それは「26文字だけで完結できる」という構造だからできる、英語のあり方と関係しています。英語のナンクロを作成した経験から言うと、26文字に限定されているために「一定以上の深みを持たない」ということです。

 カナナンクロの黒マス配置については「黒マスはタテ・ヨコには繋がらない」「四隅には入らない(これは英語も同様)」というのがベースになり、ビジュアル的な部分に関してはあまり展開しなかったのです。それを極めるにはどうしても無理がかかり、そのマス目の制限的要素と、マス目に入る言葉の落ち着き方、のせめぎあいとして推移してきたと想像します。
現在、カナナンクロで暗黙のルールのようなものになっているのが、黒マスの比率を下げる、そして黒マスを繋げすぎない、といったところでしょうか。あまり黒マスの配置効果ばかり気にしていると、短い言葉が多くなってしまったり、バランスが悪くなるほどの長い言葉が少なくなってしまったりするので、その辺りも日々進歩変革は続いているように思います。

 そして、漢字ナンクロ。英語に比べると比較しようがないくらい、たとえカナナンクロと比べたとしても、かなり黒マスが多くならざるを得ない構造です。文字数も漢字はカタカナと比べると圧倒的に少ない文字で言葉を構成できてしまう。だから黒マスは多くなる。
ただ、カナナンクロから進化・発展した経緯もあり、漢字ナンクロにおいても「あまり黒マスを繋げすぎない」という要素を重視する傾向はありましたし、いまでもそれに留意している作家は少なくないかもしれません。

 漢字ナンクロを作成しようとしたことのある方ならわかると思いますが、マス目の構成がいちばん大変な部分なのです。
実は、ある種のマス目の基本パターンというのはあります。企業秘密でもあるし(笑)、書くと長くなるので今回は書きませんが、基本パターンをベースにしてブロックを作成し、そのブロックを2文字の階段状のマス目により繋げる。これが基本です。
ただ、それだと無難なマス目になりやすい。そういったことも含め、作家は独自性=面白味を出すために日々研究している、というのが現状だと思います。
なので、興味ある方はマス目に着目してみると面白いですよ。その作家の思想性とでもいうべきものがそこにはあります。マス目のことなんか気にせず成行のままだとか、最初にマス目を作ってから考える、だとか。その他諸々。
大マス入りナンクロではどうするかと言うと、まず最初にしなければいけないのは大マスの配置。バランスももちろん考慮しますし。また、「ひらがな入り」でもまた一工夫必要です。マス目の話は奥が深い、というわけです。

 しりとりナンクロの話から脱線してしまいました。ただそれほど、しりとりナンクロは孤高の位置に立つパズルであり、それ故に好きな方にとってはたまらないパズルに成長してきた、というわけです。

●このコラムは、難問漢字館Vol.8に掲載されたものです。

【次回】パズル制作の裏側 第7話

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