パズル制作の裏側 第13話

【前回】パズル制作の裏側 第12話

 リスト付きナンクロでは使用できる(しやすい)「スタンダードナンクロでは使用が難しい文字」とはなんでしょうか。前回の続きとして、そこから始めましょう。それはたとえば「四面楚歌」の「楚」です。
「楚」は紀元前にあった中国の王国の名前、つまり固有名。その固有名が熟語に導入され、定着し、現代に至っているというわけ。中国の固有名ですから、導入されたものは除いて、日本では展開・増殖することはなく、すなわち「楚」が使われる熟語はあまり数が多くないのです。具体的に、辞書に載っていて、現在でもそこそこ流通している「楚」を含む熟語というと、「四面楚歌」「辛楚」「清楚」(ソソとした人の)「楚々」くらい。ほかに「楚越同舟」というのもありますが、こちらは「呉越同舟」のほうが一般的です。ちなみに「呉」も「越」も「楚」と同じように王国の名前。また「心合わざれば肝胆も楚越の如し」という言葉もあります。気があわないと近い間柄でも遠い他人のようだ、という意味です。
文字として使用されている熟語の数が少ないとはどういうことでしょう。それがすなわち「スタンダードナンクロでは使用が難しい」ということになるのです。
複数回(2度以上)使用されることでナンバー化される(チェック表に入れられる)というルールを持つナンクロにおいて「熟語数の少なさは致命的」です。「四面楚歌」と「清楚」で特定できる(ナンバー化できる)という考え方もありますが「わかりやすさ・特定の熟語を知らなくても解ける」という観点からすると「2度以上・3文字以上の熟語が使われること」が推奨されると(ここでは)言っておきます。
同じような文字として「欒」があります。こちらはさらに文字として使用される熟語の数が少ない。一般的なのは「一家団欒」くらい。「木欒子」というのがありますが、一般的とは言えません(ちなみにモクゲンジ・モクレンジと読む植物です)。また「完璧」の「璧」も「双璧」などしか使用される熟語はありません。「璧」は古代中国での玉器で、「白璧の微瑕」という言葉があります。(「ほとんど完全ななかに少しの欠点がある」という意味。)また「画竜点睛」の「睛」もほぼ文字としての使用熟語がありません。「睛」はひとみの意味で、「画竜点睛」とは「ある竜の絵に瞳を描き入れたら、たちまち空の彼方に昇っていった」という故事により「最後の大事な仕上げ」という意味。「画竜点睛に欠く」という使い方が一般的かもしれません。なんか足りないんだよね、ということです。
文字として使用されている熟語の数が少ないならば、そういう文字はヒント文字(あらかじめマス目に出ている文字・表出し文字)とするしかありません。それがゆえ、スタンダードナンクロでは使用が難しいということになるのです。具体的に、あるマス目を提示してみます。

最初のマス目は「リスト付きナンクロ」の問題マス目、次は解答マス目、その次は「スタンダードナンクロ」ならばという仮定の問題マス目です。「リスト付き」の問題マス目ならば「腕」「論」「日」「国」などをチェック表に入れればナンクロの問題として成立しますが、「スタンダード」ならぱ「四」「面」「清」「歌」などもチェック表に入れなければ問題として成立しません。(注意・ここでは「表出し文字は続かない」という設定としています。)つまり、作成する側からすると、余裕を持ってできる。すなわちより無理でない、一般的でいて広がりの持ちやすい展開のなかで作成に勤しむことができるというわけ。
そのほか「楚」「欒」「璧」「睛」のようないかにも使いにくそうな文字以外でも、「リスト付き」ナンクロならではの使用文字というのもあります。主に人名などに多いのですが、例としてあげましょう。「織田信長」「豊臣秀吉」「徳川家康」がリストに入るとなれば、あまり展開力のない「織」「臣」「秀」「康」なども(あまり込み入った熟語ではない形で)使用できる、というわけです。(「卑弥呼」などのほうがより強烈ですけれど。)

今回扱った「スタンダードナンクロでは使用が難しい文字」ということでいえば「スケルトン風ナンクロ」でも同じようなことがいえるのですが、それはいずれまた。次回からは「ホワイトナンクロ」について解説します。

このコラムは、難問漢字館Vol.15に掲載されたものです。

【次回】パズル制作の裏側 第14話

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