パズル制作の裏側 第7話

【前回】パズル制作の裏側 第6話

 前回に続き、しりとりナンクロについて考察してみましょう。



 前回、しりとりナンクロは「クロスしない」ことに触れましたが、もうひとつの大きな特徴として、黒マスがないことです。
スタンダードナンクロのマス目における黒マスは「壁・行き止まり」を意味しています。それによって熟語を形成させているわけです。それではなぜ、黒マスがないのにしりとりナンクロのマス目に言葉が成立するのか。それは言うまでもなく「太線・二重マス」のおかげです。それらがマス目に壁を形成しており、言葉の始点・終点を指示しているわけです。
ところで、黒マスがないとどうなるのでしょうか。端的に言うと「縦20マス×横22マス」のパズルならば、その440のすべてのマスに文字が入るということです。単純に書き込む文字の量が多いということですね。他の作家さんのパズルを研究のために解くことがあるのですが、やはりしりとりナンクロは文字を書く手が疲れます。

 さて、ナンクロのマス目にはどれだけの数の熟語が内包されているのでしょう。スタンダードナンクロでは「クロスしている文字」が熟語同士で共有されています(しりとりナンクロが二重マスで文字を共有しているように)。そのため、双方ともにいえることですが、2文字の熟語がマス目に多ければ多いほど、マス目全体における熟語の総数は多くなるわけです。
次のマス目を上のマス目と比べてみてください。



 冒頭のマス目で使用されている熟語は14個、こちらのマス目で使用されている熟語は8個です。このように(特に、しりとりナンクロでは顕著に)長い文字の言葉が多ければ多いほど、2文字の熟語が使用されていなければいないほど、マス目全体のなかで使用されている熟語は少なくなります(通常のナンクロでもその理屈は変わりません)。解く側の立場から見ると、2文字の熟語は解く上での手がかりになりにくい、というのが現実です。
基本の基本になりますが、3文字以上であり、合成語ではない(たとえば「合成写真」は合成語ですね、笑)、一般的にそれなりに知られている、そんな熟語をいかにたくさん限られたマス目に入れるか、これがパズル作家側の根本的な立ち位置となります。実は2文字の熟語の使い方にも作家のセンスというか方向というか遊び心が隠されているのですが、それはまた改めて。しりとりナンクロの特徴という話に戻しますと、わかりやすい事例として「しりとりナンクロではチェック表が多くなる」ということがあげられます。それだけしりとりマス目自身がポテンシャルとして「容量」が大きいという、ある意味での証です。

 さて、しりとりナンクロに特徴的に表れる「文字の持つ特徴」について考えてみます。
実は最近、大マスが入るパズルを作成していまして(実は別冊漢字館なんですが)以前使った大マスの言葉と同じ言葉を使用してパズルを作成してしまったのです。編集の方からそれを指摘され(もちろん中身も解答もまったく違ったものだったのですが)、赤面し、平謝りして、そのパズルを修正したのですが(ほぼ全面改定に、泣)、そこにはある理由がありました。
作家はパズルを作成する際、テーマを決めるのが普通ですが、そこにはマンネリ問題が常に付きまといます。同時に、あまり私的・傾向的になってはならないという逆説的な問題も。これについては、改めて論じようと思います。こちらもなかなか奥が深い問題なので。
戻しますと、大マスに使用した言葉はあるテーマを持ったものでした。日常的で、かつ、言葉としてインパクトのある、と考えての選択でしたが、それが失敗の原因。まあ、これについての詳細はまた後程。とにかく、その大マスに使用した言葉には「漢数字」が入っていました。
しりとりナンクロの話に戻ります。しりとりナンクロのなによりの特徴は「語頭に来る文字は、語尾にもならなければならない」「語中の文字は前後の文字とのみ繋がっていればよい」ということです。つまり一例をあげれば「漢数字は語尾になりにくい」、一家団欒の欒などなど。これについては次号で詳しくまた。

●このコラムは、難問漢字館Vol.9に掲載されたものです。

【次回】パズル制作の裏側 第8話

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