パズル制作の裏側 第5話

【前回】パズル制作の裏側 第4話

 「水道水」「日一日」「劇中劇」「馬車馬」「学生生活」「民主主義」「一世一代」「一挙手一投足」「御御御付」
これらの言葉に共通しているのは1つの熟語の中で同じ文字を2回使用していることです。

 ところで「御御御付」は一体なんと読むのでしょうか?
「ぎょぎょぎょふ」? 「みみみつけ」?

 「おみおつけ」がその答えです。答えを聞けば「ああ、なんだ」かもしれませんが、かなりヘンテコかつ魅力的な言葉ですよね(語源は諸説あるようですが、音に漢字を付すにあたって、かなりの洒落っ気が反映されていることが想像できます)。
さて、「御御御付」をナンクロで使用する場合(別の場所で「御」「付」を使用しているならば)「AAAB」ということになります。これはかなり特殊なパターン。
「一○一○」や「自○自○」「不○不○」のような「A○A○」形式の言葉はけっこうたくさんあります。この手の熟語は、少ヒント問題やホワイト問題では読者への手がかり・とっかかりのためにパズル作家が使用することの多い言葉です。「学生生活」「民主主義」のような「○AA○」タイプはあまり多くはなくて、例としてあげたこれらも合成語です。
ただ、それでもパズルで使用すれば面白みのあるワードです。「野心満満」のような「○○AA」タイプ、「事事物物」のような「AABB」タイプ、「海千山千」のような「○A○A」タイプもそれほど多くはないですが存在します。

 「一挙手一投足」「千夜一夜物語」「五十歩百歩」などは文字数が多いこともあり、同じ文字が同一熟語の中で複数回使用される言葉としては、パズル的には面白みのある言葉です。また「千○万○」などもたくさん熟語がある。総じて、漢数字が使用されている熟語はパズル的には仕掛けとして使用しやすい構造を持つといえます。
ちなみに「朝鮮民主主義人民共和国」という言葉は「○○ABB○○A○○○」という構造をもっておりパズル的にはかなり面白みのある熟語ですが、この言葉は癖のある言葉でもあります。歴史的にもさまざまな経緯があり、その言葉が持つイメージも人によっていろいろと違ってくるところがあります。
これが前後の文脈がある文章のなかで使用されていれば、人によって意見は違うとはいえ、その言葉にはある種の説得力があるはずです。しかし、パズルのマス目の中ではある意味「唐突に」その言葉が出現することになります。当たり前の話ですが、人によって言葉から感じることは多種多様(ちなみに「多○多○」という熟語もたくさんありますね)。楽しいはずのパズルで「なに、これ、どういう意味?」みたいな反応を引き出すことは得策ではありません。
そういう意味で「死」「殺」「病」みたいな文字も作家は使用を避ける傾向にあります。人生の豊かさの拡大を、あるいは、人生にちょっとした楽しみを、というのがパズルの本筋ですから。
もちろん「不老不死」「殺風景」「無病息災」のような言葉ならば、読者の方々も異論はないはずです。その辺りの匙加減に、いつもパズル作家は気を配っているというわけです。使いやすい文字ばかりではワンパターンになってしまい、面白みも減じていきますもんね。

 さて、話題を大幅に変更しましょう。ナンクロというパズルにはいろいろなバリエーションがあるのは御承知だと思います。

 ・スタンダード(ボナンザ付き、なども含む)
・大マス入り(文字入り・文字が入っていない白マス)
・リスト付き(熟語リスト・文字リスト・十字などのパーツリスト・はみ出しリスト)
・しりとり
・ナンバースケルトンタイプ
・ホワイト

 加えて、初級向けから少ヒントの難問まで、難易度によりそのバリエーションも変わります。それらについて少しずつ解説していくことにしましょう。

 変則的になりますが、まず最初に「しりとりナンクロ」を取り上げます。「スタンダード」からではなく、なぜ「しりとり」から?それはズバリ「しりとりナンクロ」がとても変則的であり、他のナンクロとはその構造がまったく違っているからです。
さて、どんなところが違っているのでしょうか。そこのあたりを掘り下げて解説していきます。



●このコラムは、難問漢字館Vol.7に掲載されたものです。

【次回】パズル制作の裏側 第6話

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